揺らぐ幻影
悲劇のヒロインを演じたいから、可哀相な自分に酔いしれたいから、
わざと近藤にダメ男の配役をすることが怖かった。
彼を好きだから恋愛をするはずが、自己愛を追求するために恋愛をしていたであろう結衣が恐ろしかった。
このニュアンスが分かる人は、きっと大人だ。もちろん精神的な解釈での大人だ。
とにかくバレンタインの結衣には、付き合う・付き合わないの二択はまだ早かった。
だからもう少し頑張りたくて……
だからホワイトデーまで頑張りたくて……
それなのに今、この状況は何なのか。
意地悪だ。あんまりじゃないか。
ゴール直前で両足骨折だ。
ひょっとすると愛美や里緒菜、大塚の件で罰が当たったのだろうか。
運に見放されたのかもしれない。
あるいは、バレンタイン神社の低予算なイベントを小バカにしていたのがバレて、
恋愛の神様を怒らせたのかもしれない。
いいや、神の悪戯だと人任せに責任転嫁をしたくない。
普段は信じていないのに都合が良い時だけ無責任にゴッドを引き合いに出せば、それこそ罰当たりだろう。
静香と近藤、二人を導いたのは自己責任だ。
結衣がうかうかしているから、結衣が過信しているから、結衣が悪い。
最後くらい自分で自分の始末をしなければと奮い立たせよう。
恋はキラキラ、くすんでいたら勿体ない。
雲に埋もれた星を発掘したものが宝石になればメルヘンだ。
ゆるい風の流れで現れる輝きは、悲観的な瞳をした乙女に限りレプリカに値するのかもしれない。
バレンタインの日のメールを結衣は読み直していた。
《考えてる》
頑張らなければ、今励まなくていつ粘る。
しかし、それでも、でも、だって、――嫉妬を知った女の子は投げやりになることを知ってる?
嫌になる。放棄したくなる。
追って追って、一瞬同じ歩幅で歩いてくれた癖に、
鼻歌を奏で浮かれていると、知らない間に置き去りにされてしまっていた。
そうなると、駆け引きをしたら良いはずだ。
自分は引いて、彼の気を引くセオリー。
しかし無気力、
今までプライドを捨ててがむしゃらに戦ってきたため、
術計なんかどうでもよくて、永遠に引いて引いて逃亡したくなる。
好きを辞退したい。