揺らぐ幻影
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きめの細かい泡立ちハンドソープを幼さアピール狙いで吹き飛ばしたような雲と、

文化祭くらいにしか出番がないスポットライトのような太陽、

ショボイ生徒が通う校舎の上にあるイラストは、その二つくらいあればとりあえず妥当だ。


朝の学校は騒がしい。
なぜなら、昨日の放課後から今朝までの出来事を友人らに語る使命が学生にはあるため、

下駄箱、教室、トイレ、自転車置場、どこもかしこも皆が口を動かしてばかりだ。


そして、廊下にも――

「準備OK?」

「演技は完璧?」

典型的な女子高生三人娘がいた。


「うんっ!!」

愛美と里緒菜にしっかり頷いて、幼稚園児らしく元気いっぱいに返事をした結衣の手には鞄が握られていた。

渡り廊下から吹き飛んでくる風に上半身が煽られるけれど負けやしない。

朝日の粒が混じった風なのだから優しくて温かいはずだ。


二日間、登校時間には張り込みを、下校時間には尾行をした。

もちろん見ていただけではなく、里緒菜・愛美コンビが声を大に結衣を褒める話をし、本人は一生懸命妄想した。

そうして安価な偶然奇遇作戦を完璧に二日かけてマニュアルをなぞってきた。


――しかし、今日は違う。

間接的な作戦を続けるだけでは何も進歩がないので、少しアクションを起こす予定であるため、

そこで里緒菜単品、愛美結衣ペアの二手に別れたのだった。


制服のリボンの辺りで脈が狂ったように音を荒げる。

不整脈になるばかり、恋は心臓にあまり良くないのかもしれない。


  ……。

近藤に彼女が居るなら、近藤のタイプが自分とは正反対なら、

今こうして頑張っていることは無駄ではないのだろうか。

以前の結衣なら悩むだけで悲しくなって終了――こんな幼稚な作戦を好んでする趣味はなかった。


『私なんか』『私なんて』と、ネガティブまっしぐら自作自演のプロばりに、

構ってちゃんに振る舞っていたことだろう。

『大丈夫?』『何かあった?』と、誰かに優しく言われたいがために、マイナス思考になっていたことだろう。


それがどうしたことか。
今の彼女は、そんな脳みそが現実離れしたゆとり女とは違っていた。

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