揺らぐ幻影
好きな気持ちが増えるごとに、ほんの少し勇気が育っていくと結衣は感じた。
そう、三流のつまらない日常を美化して大袈裟に笑っていると、
赤ちゃんみたいに清潔にすくすく成長してくれるらしい。
笑顔と勇気の関係。
算数で習った比例反比例のグラフを用いるならば、この恋はどんな形を示しているのだろうか。
今の結衣は他者立場だとドン引きされるかもしれないが、微々ながらに自信を手にしている。
むやみやたらに片思いコント・悲劇のヒロインっぽく悩むことはやめた。
心境が変化した理由は分からないけれど、
数学の『赤い玉三つと白い玉五つ入った袋から、赤い玉を取り出す確率は――』という問題を、結衣は不意に思い出した。
この手の文章問題は、文系の彼女にはさらさら理解できなくて、
結構な割合で正解したためしがなかったし、まぐれを狙った勘が当たったこともない。
『そんなん運じゃん』と、いつも思っていた。
というのも八回引いても赤が出ないことだってあるのに、なぜか正解は八分の三の確率らしく、
だったら八回引いたら三回は赤が出なければ割に合わない。
けれども、八回連続白かもしれないなんておかしな詐欺話にしか思えなかった。
従って、百パーセント当たりもしない確率を導く意味がよくわからなかった。
つまり計算の苦手な少女は、――超能力者でもない乙女は、
恋愛における無駄か無駄じゃないかというメルヘン二択でさえ、五分五分、五十パーセント、二分の一だと解くよりも、
一か八かの『運命じゃん』と、結論付けたい。
ならば、悩むことほど無駄なことはないではないか。
無駄を省きたいなら、まず悩む妄想をやめるべきだ。
なんて簡単なことなのだろうか。
行動する前に予測で迷ったところで現状は変わらない。一つも変わりやしない。何も変わるはずがない。
だとすれば、好きな人のために頑張った結果、盛大に失敗して悔やむ方が潔いし、
たとえJ-POPばりの大失恋しようが、長い目で見ると人生の糧になる気がした。
絶対大丈夫、だし
自分頑張れ
トンチンカンなヘナチョコ思考でどうにか自身の基盤を固め、結衣は結衣らしく痛々しく頑張るしかない。