一なる騎士
 どうやって、剣の鞘を払い、最初の一撃を受け止めることができたのか、サーナは自分でもわからなかった。気がつくと、彼女の剣は、自身の顔のほんの寸前で、黒ずくめの敵の短剣をはじき返していた。

 闇に溶け込む黒い服に黒い覆面の男が、舌打ちするのがかすかに聞こえた。
 覆面のわずかな隙間からのぞく瞳は、何ともとらえどころのない暗色で、ただ冷たい輝きがあるばかりだった。

(暗殺者!)

 サーナは、そう直感した。

 正々堂々と戦う騎士などより、ずっと質が悪い相手だ。あのぎらぎらと光る短剣にはきっと毒が塗り込めてあるに違いない。ほんのわずかなかすり傷ですら、致命傷になるかもしれない。そう思うと、手から足から力が抜けそうな気がした。

(だめ、気を散らしたら……)

 何より姫様を守らなくてはならないのだ。この愛らしい、何の罪もない幼子をむざむざ殺させるわけにはいかない。それに、なにより、あの方に代わって、絶対に護りぬかなくてはならないのだ。

(リュイス様、私に力を貸して)

 サーナは、剣先をまっすぐに敵に向けた構えを、かろうじて保つ。わずかな間合いを取ったまま、暗殺者も動かない。彼女の実力を測っているのだろう。

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