一なる騎士
 口の中が、からからに乾いていた。自分から動くことはできない。姫様が背後にいるのだ。

(だれか、だれか、来て! リュイス様っ!)

 心中、助けを必死に呼んでいたサーナの目が、暗殺者の背後の窓に、もう一人の侵入者をとらえた。

(そんなっ!)

 サーナの腕では、とても二人同時など戦えない。優秀な教師についたとはいえ、しょせん、付け焼き刃にすぎない。片手間に習っただけで、実戦をつんだわけでもないのだ。

 彼女の気後れに気づいたか、暗殺者は、ほぼふたり同時に襲いかかった。

 瞬間、視界が真っ赤に染まった。

 なにが起こったのか、わからなかった。

 いきなり、目の前の暗殺者の一人は、胴と頭が離れ離れになった。たちまち傷口から真っ赤な血が噴きあがり、白い壁と天井に深紅の血の花を咲かせていく。

 もうひとりの刺客にも、ほとんど同時に異変は起こった。いきなり身体から、真紅の火柱を吹き上げ、黒こげとなる。

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