一なる騎士
「もうあきらめるのか」

 アスタートはリュイスの顔を見るなり、彼の決意を見抜いたようだった。
 下手な言い抜けは不要、そう感じてリュイスは直截な言葉を返した。

「陛下は、すでに王の責務に耐えられる状態ではありません」

 アスタートは太い首をふった。

「陛下は挫折を知らなかった方だ。何不自由なく育てられ、文武両道に優れ、何でもそつなくこなされていた。王となって、はじめて自分の思い通りにならないことにぶつかられた。自分一人の努力だけでは、どうにもならないことがあることに気がつかれた」

 彼は細く長いため息をついた。

「陛下がもう少し人の助けを借りることを知っておられたらよかったのだが、そうするには、あの方は誇り高すぎた。どうにもならない袋小路に踏み込まれてしまったのだろう」

「だから、王としての責務を放棄してもいいというのですか」

 リュイスのなじるような言葉に、アスタートの薄青い瞳に鋭い光が浮かび上がる。

「では、お前は、お前は、陛下のために何をした? 女神の名の下に、あの方を王にしたのはお前なんだぞ。それなのに、たった一度きりの対面であきらめるのか。『一なる騎士』と『大地の王』との絆は、そんな簡単なものなのか。お前はそんなに簡単に、陛下の『一なる騎士』たることをやめるのか」

 きつい眼差しがリュイスを睨んでくる。リュイスは今こそ真実を口にするときだと悟った。今のアスタートには、どんなごまかしも通用しはしないだろう。


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