一なる騎士
「時間がないのです、アスタート卿。聖別とは容赦のないものです。私はすでに真の主のものなのです。私はあの方の、セラスヴァティー様のためなら何でもするでしょう。それに、このままでは『大地』は滅びる。陛下と『大地の剣』の絆を断たなければ。陛下を退位させねばなりません」

「お前は……」

 じっと鋭い瞳でリュイスをにらみつけていたアスタートはふいに視線をそらした。

 が、それも一瞬。

 射抜くような眼差しがリュイスに向けられる。

「アスタート卿」

「もういい、行け。だが、忘れるな。お前があの方の『一なる騎士』であることを辞めたのだというのなら、この私が陛下の『一なる騎士』となろう。私は最後まで陛下をお守りする、たとえこの命を賭けてもな」

 強張った表情でそう告げる彼に、迷いの色はない。

「覚えておきましょう」

 ビドゥーラを退位させるにあたって、もっとも大きな障害になり得るのはあの男だろうと、リュイスは確信していた。

 しかも、自らを『一なる騎士』だと名乗った彼とは、一対一で正々堂々と戦って勝ちえなければ、リュイスを真実『一なる騎士』だとは、『大地の審判者』だとは、だれも認めないだろう。他ならぬリュイス自身ですら。

 しかし。

(勝てるのだろうか)




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