アンガー・グラッチ・ヘイトレッド

クロい雄叫び

 退院した俺は早速マッドボール狩りを始めていた。
大、中、小の様々な大きさのヤツ。
人間に入り込んでいるヤツ。
動物に入り込んでいるヤツ。
なかなかにバリエーション豊かで楽しませてくれるんだけど、いまいち手応えが無い。
つーか弱い。
ゲームで言うところのボスがいない。
ザコばっかりで最近では相手をするのも面倒くさくなってきている。
なんというか、俺がバイク事故で見たマッドボールはもっと邪悪な感じがした。だけど今俺が相手しているマッドボールはお粗末というか薄っぺらい感じ。大した悪意は感じなくて、ちょっとした怒りとかそんな感じだ。
あのバイク事故を引き起こすくらいのマッドボールを倒さないと意味無い。口喧嘩や小競り合いを倒しても世界は救えない。
「ちっ…。」
ザコを倒した後の帰り道。酔っぱらいの近くをうろうろしているマッドボールを見つけた。
「(ほっとくか…。)」
とも思ったけど、バイクを停めた。ヘルメットをミラーに引っかけて頭をくしゃしゃと掻きながら降りて、釘バット1号を構えて背後に忍び寄る。
酔っぱらいのサラリーマンは自分が狙われてる事なんて少しも感づいている様子無く、幸せそうな鼻歌と千鳥足で歩いている。
一方のマッドボールは、いただきます。と言わんばかりにガバリと口を開けた。
「よしっ!」
俺はいつものマッドボールの隙をついて飛び出して、いつもの様にぶん殴る。
が、
まさかの空振り。
「ありっ?」
マッドボールも俺の視界から消えた。
と、背後から気配を感じて咄嗟に地面に転がった。
俺の頭があった場所をマッドボールが勢いよく通りすぎ、酔っぱらいの頭にかぶりついた。
かぶりついたってよりは、すっぽりと頭に被さった。の方が表現としては合ってるか。
「ちっ!油断したぜ。」
罪の無い一般人でもマッドボールに取り付かれた以上、この釘バットで殴らなきゃいけなくなる。出来ればそれは避けたかった。喧嘩好きの俺でもなんの罪も無い人を殴るのは抵抗がある。
「面倒な事になったな。」
酔っぱらいは俺を睨んで言う、
「オレはなぁ…。会社の操り人形じゃあないんだよ!」
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