千夜を越えて
「ださいなぁ…こんなことで泣くなんてさ…」
井戸で水を汲み、顔を洗う。
「はいよ。」
顔を上げると、目の前には手ぬぐいを差し出す永倉が立っていた。
「ありがとうございます。」
あたしはそれを受け取る。
「お前よ、その歳になるまで何してたんだ?」
「何って?」
「だからよ、飯の手伝いとか、しなかったのかよ。」
「はい。」
永倉は呆れた顔を見せる。
「お前、女じゃねぇな…」
あたしは、持っていた手ぬぐいを振り上げる。
「ちょっ…悪かったって。」
「あたしはっ…やることが他にあったから、家事全般は得意じゃないの。」
下ろした手ぬぐいを握りしめる。
「やること?」
「と、とりあえず!あたしは、千夜さんって人とは違いますから!」
そう言い捨て、母屋の方へ走って行った。