千夜を越えて
「平助、うるさいぞ。とっとと座れ…」
土方は、藤堂の横にいる咲夜に気付き、眉間に皺を寄せる。
「何でお前がいる。呼んでねぇぞ。」
咲夜は、藤堂を睨んだ。
ほら、怒られるじゃんか。
「何でもないです。今ここで会っただけです。」
踵を返して、その場から立ち去ろうとする。
「良いじゃないですか。話を聞くだけなら。」
そう言ったのは沖田である。
「総司、まだこいつの疑いが晴れたわけじゃねぇんだぞ。」
「良いですよー。緊急事態に無関係のあたしがいたって邪魔なだけだし。」
「わかってんじゃねぇか。そういうこった。さっさと行け。」
そのまま、廊下を歩き出す。
後ろで、襖が閉ざされる音が聞こえた。
緊急だもんね…
緊急……緊急?!
「ねぇ!今日って何日?」
庭を駆ける隊士に尋ねる。
「今日は6月5日です。」
そう言って、走って行ってしまった。
「6月5日…」
記憶を探る。
自分の少ない知恵を絞って、過去に起きた事件を思い出す。
「あっ!」
今日は紛れも無い、新撰組にとって大きな事件が起きた日であった。
新撰組の名を幕末史に刻んだ激闘、池田屋事件が-