かさの向こうに縁あり
社殿から離れ、来た道を戻る。

苑さんの闇に取り込まれたように黙ったまま、どこかへと足を進めていく。


この沈黙の中、さっきの苑さんの言葉を振り返っていると、初めて知ったことがあった。


彼らが――新選組が、壬生浪と呼ばれていたことを。

壬生っていう漢字はきっと、栃木県壬生町の壬生だろう。

昔の人もそんな風に略したりしたんだ、なんて思ってみたり。



気づかないうちに、さっきくぐった門の前に来た。


今の感情に似つかわしくない色、朱色の門だ。

ここに着いた時の楽しげな雰囲気は、私達にはもうない。


そこで、一つだけ苑さんに聞きたいことがふと浮かんだ。

それを慣れた手つきで懐紙に書き、俯く苑さんにすっと突き出す。



『彼らのこと、恨んでいるんですか』



酷な質問かな、とも思ったけれど、新選組の人達を知っている以上、やはりそれを聞かずにはいられなかった。

それに苑さんは無表情で答えてくれた。



「そりゃあ最初は恨んだわ。……でもね、あの人は武士だったから、恨むのをやめたの」



苑さんが武士の妻だったようには見えない。

だけど、武士の妻として、きっとある程度の覚悟はしていたんだろう。



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