かさの向こうに縁あり
いつ殺されるか死ぬかなんてことは誰にも分からない。

ましてや、動乱の時代だからこそ余計に分からない……って、前に父が言っていたのを思い出す。



「だから今は何とも」



そう言って、苑さんは私の顔を見てにっこりとした。


辛くても、受け止めなければならない現実が存在する。

だから素直に受け入れて、自分は生きていかなければならないんだ――


苑さんの笑みは、まるで私にそう伝えるかのようだった。


私も彼女に微笑み、漸く前を向いて門をくぐり、大通りに足を踏み出した。



――ちょうどその時。




「――妃依……ちゃん?」



突如として右から聞こえてきた声に、一瞬にして身体が固まった。

すぐにその声の主が誰なのか、分かってしまったから。



この声、絶対に平助だ……!



そう気づけば、軽やかだった足が止まり、唇を噛んで下を向いた。



「妃依ちゃん……?どうかした?」



苑さんに名前を呼ばれても、私は全く反応しなかった。



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