ハルジオン。
小学三年の春、父・篤史は八歳の達也の手を取り、逃げるように町を出た。

「父ちゃんの故郷に行くんだ」

と父は言った。

その時の父は、少しだけ明るい顔をしていた。

達也も少し嬉しくなった。

二日後、達也はすり切れた古いランドセルを背負い、薄汚れた服を着て、転校先の小学校の門をくぐった。

町中の子供を集めても学年に一クラスがやっとというこの町では、転校生の達也の姿は嫌でも目についた。

「うわ、きったねぇランドセル」

「くっさ!」

「こっち来んなよ」

達也の居場所が教室の端に追いやられるのに、たいして時間はかからなかった。

窘めるべき教師にすら、蔑むような目で見下されているような気がした。

だから誰かをぶん殴った。そしたら殴り返された。達也は歯を食いしばり、小さな拳でそいつを何度も何度も殴りつけた。

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