ハルジオン。
達也は深々とため息をつき、愛染窟に体を預けた。

木々の狭間から、何年経っても変わらない町の景色が見える。

田んぼに水が張られている。そう言えば、ちょうど田植えの季節だ。

ひとしきり息を整えると、達也は洞穴の中へと体を潜り込ませた。

思いのほか、洞穴の中は狭かった。

せいぜい大人五人が身を寄せ合って納まる程度の広さしかない。

「昔は広く感じたんだがな……」

ひんやりと濡れた天井から、ぽた、ぽた……と滴り落ちる水滴を見つめながら、達也は呟いた。

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