亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~

………消したい?


何だ、その一見普通に見えて物騒な言い回しは…と訝しげな表情で振り返るが、ノアのとてもいい笑顔は張り付いたまま、一向に消えない。

首を傾げて前を歩くドールに向き直るも、彼女は無言だった。
…ただ、両手の握り拳が白くなる程強く力が込められているのは分かる。

「…何それ?人間関係の何か?人間ってそういうのすぐ気にするから厄介だよねー」

「ええ、本当に貴女の仰る通りですよ。私の陛下に乱行を働く不届き者でしてね、煩わし過ぎて、とりあえず軽く呪い殺したいくらいです」

「それって死んじゃうじゃーん」

「ええ、死んじゃいますね。本望です」



アハハハハ…と奥底が見えない謎の会話を続けていれば、もうすぐそこにはこの城の最奥に位置する謁見の間が見えていた。

大きな黒い扉は、一行を歓迎するかの様に大きく口を開いている。

扉の両端に整列するのは、兵士ではなく、ほとんどが法衣を着た知識人達だ。
この城には、甲冑も剣も盾も見当たらない。
それがイブにとっては不思議な光景であると共に、妙に居心地が良くもある。
戦士達が醸し出すあのピリピリと張り詰めた空気は皆無。代わりにあるのは、何処かのんびりとした柔らかなそれ。

争いの絶えない世の中に混在する、ささやかな安らぎがここにはある気がした。





人々が整列する扉を越えれば、その一歩先からは広大な謁見の間が広がっていた。
自国の城にもほぼ同じ広さの謁見の間があるが、見慣れているつもりでもやはり圧倒されるものだ。
高い天井から壁、床まで、白で統一されている。足元に敷かれた絨毯の深い青色がよく映えていた。
埃一つ無い、許されないこの静かな謁見の間の中央を、ひたすら前に向かって歩いていたイブ。
そこら中のステンドグラスから差し込む七色の閃光に目移りしてしまっていると…前に踏み出そうとしたイブの肩を、不意にドールが引き戻した。


一瞬訳が分からずキョトンとドールを見やれば、「それ以上前に出るな」と小声で囁かれ…進む所まで到着していたことにようやく気がついた。
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