亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~
そして改めて前に向き直るイブの視線の先に……大理石の短い階段と、その先にある青く美しい玉座と…。
そこに腰を下ろしているのは…。
「―――遠路はるばる、御苦労様です。イブさん」
肩よりも長いウェーブの掛かった青銀髪と、透き通るような白い肌。
何だか眠そうに半分閉じられた、大きな紺の瞳。
青と黒を基調とした質のいい服を、その細身に着こなしたなんともスレンダーな姿。
一見美少女と見紛う容姿のその青年は、玉座に腰掛けたまま、綺麗なアルト声で丁寧に言葉を紡いだ。
この国の最高権力者、デイファレト王の座につくのは、まだ十代半ば程の…儚げで美しい青年である。
王でありながら礼儀正しく会釈をしてくる彼に、イブは笑みを浮かべた。
「あんたも元気そうだね、レト」
親しげにそう言えば、デイファレト王…レトは、相変わらずの無表情のまま、控え目に「はい」とだけ答えた。
三年前のデイファレトの王政復古で、約五十年振りの新王として君臨したレト…当時、まだ十一歳だったレトバルディア=クウ。
王族や貴族とは何の由縁も無い、狩人という最下位身分の生まれだった彼は、運命の悪戯か神の心変わりか……最優先すべき王族の人間がいたというのに、新王として迎えられてしまったのだ。
王族の末裔であった唯一の親友を泣く泣くその手で殺めた後、悲しみのどん底から玉座につく事を決意したレトは、ノアやローアンを始め…たくさんの人々の助けを借りながら、国を治めてきた。
何もかも無知だった若き王は、この年でいつの間にか十四歳。
ゆっくりと、しかし確実に、彼はデイファレトを良き方向へ向かわせている。
その証拠に、長い間冬だけだったこの国にも、ようやく春という季節が訪れ始めている。
恐らく、レトの善政で永遠の冬季という神の呪いが解けてきているのだ。まだ完全に国中の雪が溶ける事は無いが…春の花で埋め尽くされるのも、そう遠くはないだろう。