亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~
「そんな真顔で言われてもなぁ…」
キリッ…とした勇ましい表情で言い切るノアを、イブは白い目で見上げる。
自分の主の事となると、ノアは敬愛…を既に逸脱している気がするが、狂信的に敬う主の魅力について聞いてもいないのに熱く語り出す。
…その愛情が、物凄い迷惑だ。
汚れを拭き終わった召使いにノアが礼を言えば、彼女達はアイドルと握手を出来てはしゃぎ回る少女の様に興奮しながら、素早く持ち場に戻っていった。
とりあえず元の静かな広間に戻ると、ドールが先頭に立って案内をしてくれた。
二人の後を、浮遊したままのノアがフワフワとついて来る。
時折ポニーテールを引っ張られたり固結びをされたりと、繰り返されるちょっかいをイブは手慣れた様子で蠅でも叩くかの様に払い落とす。
「最初…あんた一人だったから、遊びにでも来た馬鹿な暇人かと思ったけれど……その手に持っているものからして、一応正式な使者としてお出でなさったのね……部下の一人くらい付けなさいよ、紛らわしい…」
「だってほとんどの兵士さん達は、あたしの速さについてこれないんだもん。独りの方が断然楽だしねー」
イブの手には、無造作にブラブラと振り回される筒状の物が一つ。
ここに来るまでにあちこちぶつけて傷だらけになってしまっているが…中身はとてもとても大事な…国家間の運命を左右する程の文が入っているのだ。
そのお使いを大雑把なイブに任せるのもどうかとも思うが…何かあった時のためと考えれば、イブが適任者なのだ。
永遠に続くように思えてくる長い廊下を進みながら、会話は交わされる。 たまにすれ違う召使いや、法衣を着た老人達は、皆礼儀正しく挨拶をしてきた。
本の三年前まで、五十年以上も無人で寂しい城だったとは到底思えない。
「今のところ、こっちで問題は特に無い感じ?政治で行き詰まってるとか」
王政復古には多くの時間が掛かるものだが…見たところ、この国に特に問題は無さそうだった。
何気なく聞いたイブの質問に、背後のノアがとてもいい笑顔で口を開いた。
「あー、御座いますよ。消したい問題児が一人」