亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~
「今日はね、国の使者として来ましたー。ちゃんと書状もあるよ」
そう言ってイブが書状の入った筒状の入れ物を掲げて見せると、始終ぼんやりとしていたレトの表情が、見る見るうちに若干晴れていくではないか。
向けられるのは変わらず無表情なのだが、少しだけ大きく広がった目が、なんとも嬉しそうだ。
フェンネルとデイファレトの親交が深い様に、ローアンとレト、両者の国王同士も仲が良い。
王としての自覚や、国政の何たるかを一から教えたのはローアンだ。
お互いに暇があれば剣術の稽古も引き受けてくれるし、悩み事があれば忙しくとも相談にのってくれる。
レトにとってローアンは頼りになる師匠の様な尊敬する存在で、会えば親鳥について来る雛の様に彼女の後をついてまわっている。
だが…レトの中ではローアンへの依存度は師弟のレベルを軽く越えてしまっているらしい。
兄弟のいない一人っ子だったレトからすれば、ローアンは憧れの姉という存在同然の様だ。
昔交わしたとある文の一つで、レトは「お姉さんと呼んでもいいですか」と姉発言の許可を伺った事があるのだが、対する当のローアンはたった一言。
…「阿呆か」と断固拒否をしている。
「………お手紙、ですか?……僕、最近忙しくて、なかなかお手紙、送れなかったから………凄く嬉しいなぁ…」
ご本人から姉発言の許可は得ていないが、尊敬するお姉さんからの書状となると、やはりいてもたってもいられないらしい。
彼の背景にポワポワと浮かぶご機嫌の花を眺めながら、イブは非情にも首を左右に振った。
「ううん。手紙じゃなくて大真面目な書状。私的な手紙は何にも預かってな………………そんなに落ち込まなくってもいいじゃん…」
手紙なんか無いと聞くや否や、あれほど晴れやかだった彼の表情は一気に影が差し、背景に浮かんでいた可愛い花はボタボタと落下していった。
一瞬、肘掛けに顔を伏せたかと思うと改めて顔を上げ、大きな溜め息を吐いた。
そんなに残念なのか。