亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~
書状を読み終えたノアは、長い髪を弄りながら溜息混じりに呟いた。
平和協定を試みるローアンの大胆な行動には賞賛の意を示しているが…バリアンを毛嫌いしているノアからすれば、この協定への参加は少々嫌々ながらであるらしい。


拗ねた子供の様に頬を膨らますノアに苦笑を浮かべると、レトは静かに口を開いた。

「…一度目、二度目の時もそうでしたが……僕の意思は変わりません。……平和協定………このデイファレト王五二世、喜んで同意致します。………場所はいいとして、日取りはもう決まっているのですか?」

レトの問いに、イブは首を左右に振る。

「まーだ…だと思うよ。日取りを決めたいところだけど、三度目の今回はちょっと慎重にいくつもりでね。…あっちのバリアンがうんって言うまで、辛抱強く待つつもりだよ」

「待つって言っても……また不参加の一言が返ってくるのが落ちじゃないの?…あっちが何考えているのか知らないけれど………嫌な予感しかしないわ。何せあの老王の子供だもの、全くもって信用出来ないわ」

ノアと同じく、バリアンに対して不信感しか抱いていないドールは、今回の協定も失敗に終わるのではと予想しているらしい。事実、過去を振り返ってもその可能性の方が高い。
一向に賛同しないバリアンの孤立に悩まされているのは、デイファレトも同じだ。


「……僕も思うに、何かきっかけが出来ない限りバリアンは動かないと思います。…それに、あの国はただ閉じこもっている訳ではないでしょう。バリアンが動く時…それはきっと何かしら…大きなことが起こる時。………幼い頃から相手の気配を読む癖がついているせいでしょうか………何となく、そんな気がするんです」

「……大きな事?」

何それ、と首を傾げるイブに、レトは同じように小首を傾げながら…しかし低い声で言葉を紡いだ。


「……………戦、の様なもの。………森の中で息を殺す獣の様な…殺気に似た臭い………何となく、ですけれど」

いつにない真剣な表情で俯いていたレトは、数秒の間をおいてパッと顔を上げた。先程の様な曇りの無い、けれどもやはり眠そうな無表情でイブを見詰める。


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