亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~

街に入ればまずすべき事は、地味な衣服を纏い、出来るだけ顔を隠し、且つ大きな荷物を持ち歩かない事だ。
荷物がどうしても多い場合は、街に入る前にあらかじめ自分にしか分からない場所に隠す、埋めるなどの対策をとらねばならない。

街の至る所で佇み、腰を下ろしている明らかに怪しい浮浪者達が、常に道行く人々を舐める様に凝視している。
頑丈そうな荷物、大事に抱えている荷袋、固く握りしめられている拳の内の小物……とにかく物の大小に関わらず、こいつにしようと標的にされてしまうと危険だ。

荷物の中身が何なのか、浮浪者達にとってそれは大した問題でもないし、気にかける事ではない。
どんながらくたでも、ゴミでも、可能な限り売れる物ならば何でもいい。
彼等は常に、何を何処で売れば幾らの値が付くか…そればかりに頭をフル回転させている様だ。 故に、盗難の被害は絶えない。
物に限らず、女子供を狙った人攫いも珍しく無いのだ。





街に入る旅人で大きな荷物を持つ者、派手な衣装の者、顔を晒している者は珍しく、異国からきた人間かもしくは身分の高い人間であると一目で分かる。そういう人間は、バリアンでは迷子と呼ばれている。


ここ数年ではバリアンの治安の悪さを知ってか…対策を怠らぬ様に事前に調べ、国民に成りすまして街に入る人間も増えているのだが。









今し方、寒いデイファレトから砂漠に移り、灼熱の日光を避ける様に静かに俯きながら、最寄りの街へと歩く人物の手には……見るからに頑丈そうで大きなスーツケースが一つ。
そして背負っているのは、布にくるまれた細長くて大きな荷物が一つ。


バリアンの現状を知ってか知らずか…赤い砂漠を独り歩き続けるその人物は、旅人ですよと言わんばかりの大きな荷物を持ち歩いていた。





細かな砂を攫って吹き付けてくる風が、マントを大きくはためかせる。
右手にぶら下げたスーツケースはだいぶ年期の入った物なのか…表面の革は破け、角の金具は曲がり、ケースの鍵は使い物にならないようで、開かない様に紐で無造作にがんじがらめに縛っている。
< 109 / 341 >

この作品をシェア

pagetop