亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~
不法侵入には罰金が伴う首都とは違い、こんな辺鄙な田舎では同罪に対し、殴る蹴るの体罰という、罪の重さは痛みで知れと言わんばかりの嫌な制度が設けられているのだが。
分かっていながらも、旅人は自分でも気づかぬ間にさっさと街中に足を踏み入れていた。
…いやはや、常々自分の好奇心は高いとは思っていたが、後先を省みないその前進力は恐ろしいものだ。
街中にある建物のほとんどは、ここでひっそりと暮らす住民らの家だ。よく探せば食糧を売る店もあるが、決して上等な物で無いことは確かで、何より値が張る。井戸の水にまで値札が付くのだから堪らない。
さほど高さの無い建ち並ぶ家屋の奥から聞こえてくるざわめきに耳を澄ませながら、旅人は不法侵入にも関わらず実に堂々と街中を歩く。
土地も大して広くない田舎だ。お目当ての民衆のざわめきはすぐに距離を詰めてきた。
その人だかりは、家屋の群れにぽつんと佇む宿屋の、その脇にある小さな路地に入った所から溢れていた。
路地の奥だろうか。男も女も子供も老人も…このざわめきの根元たる何かに向けて指を差している。
人一人通れるくらいの狭い路地の先は、宿屋の裏口に通じているだけでそれ以上先に道は無かった…と、旅人は記憶している。
この照りつく日光から影に免れた、薄暗い路地の行き止まりに…人々の興味を惹きつける何があるというのだろうか。
辺りからヒソヒソと耳打ちする多くの囁き声を掻き分けながら、旅人は真っ直ぐ路地に向かって歩を進めた。
人だかりの奥から、数人の男達が首を傾げながら戻っていく。
擦れ違い様に、旅人の耳は彼等の会話の端々を捉えた。
「あれは、いつからあったんだ?」
「…さぁな。しかし、宿屋の店主が首都に出かけた五日前には無かったらしい…」
「…じゃあ、その間だろうな。……ここ最近はどこの家も隣街に出かけて留守だったからな………気付かなかったわけだ」
「………それにしても、妙な死体だったな…」