亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~

一年を通して酷暑が続くバリアンでは、喉を焼くこの酷い熱気に晒せば何もかもあっという間に熱を帯びるし、水は枯れるし、生物は腐る。

旅人が見下ろすそれも、たった数日の経過で腐敗を通り越し、カラカラに乾いた干物の様になっていた。
幸い、湿気というものがこの地には存在しないため、屍が放つ死臭に悩まされることはあまり無かった。


「………」

佇む旅人の前には、壁を背に座り込むまだ新しい一つの死体と……その死体を真正面からじっと覗き込んでいる一人の男の姿があった。

マントとフードで全身を隠したその男は、目の前の干からびた死体を凝視し、そして死体の俯いた頭に手を伸ばしていた。男の指先は、死体の額の辺りを仕切りに撫でている。

他の野次馬には気にも止めていないのか、旅人が真後ろに立っているというのに、男は一度も振り返ろうとしない。
やけに熱心に死体ばかりを観察する男に溜め息を吐きながら…旅人はその寡黙な背中に、ポツリと声をかけた。







「死体がそんなに物珍しいのですか。………レヴィ君」


…途端、苦笑混じりの旅人の声に目の前の男の背中はピクリと動き、死体の頭に触れていた手を引っ込めた。
そして、不思議な空気と威圧感を放つこの男…レヴィは、ゆっくりと旅人に振り返った。

相変わらずの鋭い眼光が、真後ろでニコニコと微笑む謎の旅人を見上げ、ぶっきらぼうに口を開く。



「…予定の日より到着が遅かったじゃないか……ユアン先生。待ちくたびれたぞ」

「その先生って呼ぶの、止めて下さいって言っているじゃないですか。偉くも何でも無いのですから」

「医者って時点で、充分先生が務まるさ」


そう言って腰を上げたレヴィは、自分よりも少しだけ背丈の低いこの旅人…ユアンを静かに見下ろすと、ここが比較的涼しい日陰だからか、彼はおもむろに被っていたフードを片手で外した。


現れたその姿は、見た目十代後半か二十代とだいぶ若い青年だった。
直ぐに目を引くのは、バリアンではあまりお目にかかれないその色白の肌と、肩まである白に近い色素の薄い金髪だ。
< 112 / 341 >

この作品をシェア

pagetop