亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~

宙をクルクルと回転しながら鈍い光沢を放つそれを、色白の手が俊敏な動きで掴み取りすぐさま懐に潜っていった。
その一連の動きは、目で追えない速さを兼ね備えてある。

「銅貨一枚ですか。白槍ともあろう方が、しけてますね。まぁ頂けるだけマシと思うことにします。御贔屓して頂き毎度ありがとう御座います」

「そういう愚痴は口に出すな…足元見やがって。……とりあえず、銅貨一枚分は働いてもらおうか、先生」

やけに綺麗な微笑を見ていると段々と腹が立ってくるが、不思議と憎めないのがユアンである。
溜め息混じりにそう言うと、レヴィは目下に横たわる問題の死体を指差した。

変わり果てた屍を前に、ユアンは大きなスーツケースを脇に置いて屈み込んだ。
微かに鼻を突く死臭にも、ユアンは全く動じる事無く顔を近付けて観察する。


「…そいつは、うちの部下だ。………本当なら、二日前にとっくの昔に顔を合わせていたんだが……この有り様だ」

再び目下の死体を見下ろすレヴィの瞳には、微かに怒りの色が見え隠れしていた。

死体の男は、三槍の白槍に所属するレヴィの部下だった。
ここら一帯の情報収集で数日前から潜り込んでいたのだが…報告する予定の日になっても、その部下は帰ってこなかった。最後に寄ると聞いていたこの街に足を運んでみれば…行方知れずとなっていた部下は、死体となって見付かったというわけだ。

こんな国境近くの街でも、国家側の兵士と鉢合わせになる可能性はある。三槍の人間だとばれてしまえば敵は容赦なく刃を向けてくるが…部下は、それなりに腕の立つ男だった。逃げ足も速い。
そう易々と殺される様な男ではなかった筈だ。

だが、目の前のそれは明らかに他殺死体だった。不意を突かれたのか何なのかは分からない。
…誰が殺したのか。

だが、レヴィが一番首を傾げているのはそこではない。
問題は…その殺され方だった。




「…身体を見てもらえば直ぐに分かるだろう?………目立った外傷が、ほとんど無いんだ」

「切り傷も打撲痕もありませんね。服も乱れていないし、綺麗なものです」


横たわる死体は、刃や鈍器による無惨なそれとはまるで違った。
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