亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~






もう大昔のことだが。

自分には、幾つか離れた妹がいた。
病弱な母に代って幼い頃から赤ん坊の妹の世話をしていた記憶がある。まだハイハイも出来ない内は目で自分の姿を追い、たどたどしくも歩ける様になると雛の様にチョコチョコと自分の後をついてまわった。

何処に行くにもついてくる。
幼い頃は、それが鬱陶しくて仕方なかったのだが。
その妹がいなくなってしまった今、自分の背中を追ってくる幼い存在が、実は可愛くて仕方なかったのだと気付くのだ。

もっと、遊んでやればよかったなあ。
好きなものをたくさん食べさせてあげたかったなあ。
些細なことで喧嘩して、カッとなって叩いてしまった事を今は後悔する。

失ったものは、大きかったんだなあ。


遠い昔、理不尽な戦火で失ってしまった家族の事を、ロキはぼんやりと思い出していた。
どうして急に妹の事など思い出したのだろうか。……それは多分…目の前で行われているほのぼのとした子供の教育風景を見学しているためだろう。

……教育しているのは、子供ではないが。




「そうそう…そこで右足出して……違う!そっちは左!!左は駄目だって……!」

そんな叫び声と同時に、慌ててライはダッシュした。
その直後、バランスを崩して前のめりに倒れ込んだ少女…サナを見事にキャッチしたライの姿があった。
ゼエハア…と冷や汗を拭うライに抱きかかえられたサナは、きっと何も分かっていないし何も考えていないのだろう。ボケーっとした可愛い顔で首を傾げている。




記憶の無いサナという少女が拾われてから、五日という歳月が経っていた。
突然の少女の居候にこの先どうなるやらと思われたが、今のところ特に変わった事件も起きていない。彼女の扱いに困っていた面々も、三日も経てば慣れたものだった。
ただ、レヴィだけはまだ彼女に不信感を抱いている様だが。

特に、世話係に任命されてしまったライの順応性と、過保護っぷりには周りも驚くばかりだった。
元々世話好きなライは、最初はこの綺麗な美少女にドギマギしていた様だが…すぐにサナの保護者に変身した。
歩く、走る、食べる…といった人間の常識行為をも忘れてしまっているサナに、ライは毎日付きっきりで教えている。


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