亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~

カツン、カツン…と単調なリズムで刻まれる、軽いようで重く響き渡る音色が耳に近くなっていく。

空気を震わせる老いた声が歩み寄ると共に、ロキの胸は酷くざわついた。自然と息苦しくなっていくのを感じながら、例えようの無い迫り来る老人の威圧感にロキは息をのむ。

自分は随分前からオルディオという老人と共にいるが、この男の醸し出す空気には……どうしても慣れる事が出来ない。 老長は、伊達に老いた人間ではないのだ。

「………てめぇは、てめぇの重さというやつを知りな、ロキ…………てめぇは、黒槍を名乗った時から……わしらの重鎮や。…身の程をわきまえな、小僧」

小僧、という挑発的な単語にロキは微かに顔をしかめた。
オルディオの言葉は全て正論だ。だがしかし、一度覚えた衝動と反発心の抑止力までにはならない。

苛立ちを隠せぬまま、ロキはオルディオに向き直った。
被っていたフードを外し、彼に向かって物申そうと口を開いた途端……舌の上まで出掛かっていた言葉を、ロキは飲み込む羽目になった。

予想だにしていなかった浮遊感が、不意にロキを襲ったのだ。


「…っ!?」

足払いをかけられた、と分かった時には、ロキの身体は既に転倒していた。
地面に思い切り打ち付けた後頭部の痛みで、一瞬目の前が火花で埋め尽くされる。
頭を抱えて起きあがろうとしたロキだったが……その喉元に、年期の入った杖の先が突きつけられた。
喉仏に当たる冷たい杖の温度に思わず硬直するロキを、オルディオのゾッとする様な眼光が見下ろす。



「……ロキ…てめぇの行いをよくよく改めな………愚痴を言う内は、まだまだてめぇは小僧や…。………………………日が落ちてから、好きなようにしやがれ…」


しわがれた声はロキに降りかかる。オルディオは喉元に突きつけていた杖の先でロキの額を軽く小突くと、そのままゆっくりと踵を返した。

覚束無い老いた足取りで、オルディオは立ち尽くすリディアの元へと歩んでいく。
< 128 / 341 >

この作品をシェア

pagetop