亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~
夜の暗に慣れたウルガの瞳は、玉座に腰掛ける偉大な我が主の姿を静かに見詰めた。
視線の先にいるのは、前バリアン王の様な老いた姿とはまるで違う…自分よりも遥かに若い青年だ。
適度に引き締まった身体は背丈も高い。赤褐色の肌に、後ろに一つに結った炎の如き赤い長髪。
足を組み、気怠そうに頬杖を突いてこちらを見下ろしてくる瞳は、闇の中から獲物を狙う若い獅子のそれだ。
隙の無い鋭い双眸に映るだけで、凄まじい重圧がウルガにのしかかる。
獰猛な牙を潜ませる、若き赤の獅子。
彼こそが、バリアン王五一世。
三年前に単独で謀反を企て、同じ血の通う父の腹をその手で裂き、そして唯一無二の兄を葬り……王子の身から玉座を奪い取った、若き王。
名は、リイザ=ベニガウス。
青年は、この歳で十五を迎える。まだ成人にも至っていない。
我が主、リイザの静かな問いに対して、ケインツェルの重い空気を裂く奇天烈な声が響き渡る。
「ええ勿論!何も問題は御座いませんとも!息を潜める謀に関しては私の高笑いも成りを潜めるくらい、慎重に進めております故!……おーやおやおや…その目は何でしょうかねぇ、ウルガ。独りだけ蚊帳の外なのがお気に召さないのでしょうかねぇ!」
「…当然だろう」
お前のやること自体が気に食わない…という本音を飲み込みつつ、負けじと銀縁眼鏡に睨みをきかせれば、レンズの奥でニヤリとその目が笑った。 …不快だ。心底。
「…裏仕事はケインツェルの十八番だからな………お前も、そいつの企みが気になるか…?」
「………」
部下二人の仲がよろしくない事は、リイザもよく知っているらしい。
反発し合う二人の様子を窺い、笑みを含めてウルガに声を掛ければ、彼は無言で頭を下げた。
寡黙であっても、彼からは不満が漂っている様に思えて、リイザは口元を小さく歪める。
「………企みと言っても、別に大それた事じゃない…。………ケインツェルに任せているのは、三槍の処理だ」
三槍の処理…という言葉に、ウルガはゆっくりと顔を上げた。
十五の青年とは思えない黒々しい笑みを浮かべたリイザを、ウルガは眉をひそめて見詰める。