亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~

ダリルもそれは同様らしく、面と向かって話しているのが一国の女王陛下だというのに、堂々と欠伸を噛み殺しながら少々無礼な態度で返事をしてくる。

「………さぁねー。……昨日の昼間に追い出された訳だから、あと半日くらいで帰ってくるかもね。あいつ、歩くの速いって部下から聞いてますし?」

敬語は何処に行った、敬語は、と突っ込みたくもなる何とも軽い口調にも、ローアンは別段突っ込まない。
突っ込むのも無駄だからだ。


「…無事に帰ってきてくれるならそれでいい。戻ってきたら、一日くらい休めと伝えなければな。……あいつは根っから真面目故に、無理をし過ぎる。…少しは自己管理を徹底しろとお前からも伝えておいてくれ。それともう一件の………」




ローアンの意見を聞きながら、羊皮紙の裏に「自己管理、徹底、熱血馬鹿」とメモを記していたダリルだったが…不意にローアンの言葉が中途半端な所で途切れた事に気がつき、玉座の彼女に顔を上げた。




ダリルは盲目だが、生まれながらに持つ彼のとある能力は、彼の頭に周りの情景を事細かく映し出してくれる。

故に転んだりぶつかったりなどする事は無いし、読書も物書きも出来る。


そして、我等が女王陛下様がいつの間にか背後から伸ばされていた小さな両手の平で目隠しされているのも、ぼんやりと観察出来ていた。


…本当に、いつの間に玉座の後ろに回り込んだのかは分からないが…その小さなアサシンは、この真面目な謁見中にも関わらず玉座の背もたれによじ登り、恐れ多くも無邪気にローアンの両目を塞いでいる。


…玉座の真後ろからひょっこり顔を覗かせているのは、まだまだ背丈の小さい少年だ。
ブロンドからブラウンへとグラデーションの掛かった短い髪に、林檎の様に真っ赤な頬にえくぼを浮かべて可愛らしく笑う男の子。

何よりも一番目を引くのが、ぱっちりと開いた二重瞼の中の、美しいオッドアイだろう。
ルビーの如き真っ赤な右目に、透き通る琥珀色の左目は、実に生き生きと輝いている。
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