亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~
色白の小さな両手の平で微動だにしないローアンを目隠ししたまま、少年はウキウキと謁見の間に声を響かせた。
「はい、誰でしょー!僕は一体誰でしょー!母上、当ててみてください!」
…母上、とローアンを呼んだ時点で答えは出ているのだが、苦笑するローアンは首を傾げてわざと分からない素振りを見せる。
「…誰かな?…母上は分からないなー?………ルウナかと思ったけれど、ルウナは良い子さんだから、母上のお仕事をお邪魔したりしないからなー…」
…などと、少々意地の悪い台詞を吐いてみれば、どうやら効果は覿面だったらしい。
ルウナ、と呼ばれた少年は相変わらずの笑顔のままだったが…びくりと身体を震わせると、急にそわそわとし始める。
その我が子の狼狽する様子があまりにもおかしく、ローアンは笑いを堪えるので精一杯だ。
そんな可愛らしい親子のやり取りを観察するダリルはというと……立ったまま、仮眠を取る構えに入っていた。
この場をどう切り抜けるか考えあぐねているらしいルウナは、少し上擦った声で言葉を続ける。
「……ル、ルウナは、母上のお仕事のお邪魔しても、とっても良い子だよ!すごく良い子!本当だよ!」
「そうかなー?…でも母上は前にも言いました。…次にお仕事中にお邪魔をしたら、罰として一日無視の刑を処す…って。良い子のルウナだったらこんな事しな…」
「嫌ああああぁー!無視しないで母上えうええぇー!」
少年の悪戯心は、今ので容易く折れて粉砕し、無の境地へと落ちていってしまったらしい。
子役顔負けの速さで大きな瞳をあっという間に涙で一杯にすると、俊敏な動きですぐさま正面に回り込んでワッとローアンの膝にダイブした。
涙で母の膝を濡らすのも構わず、嫌ー嫌ー!…としがみついて喚き続けるルウナを見下ろしながら、ローアンは聖母の様な笑みを浮かべて一言。
「…誰が泣いていいと言った?」
「僕泣いてないよー」
少々ドスの利いた低いローアンの言葉に、何処でこんなにも早い切り換えの速さを学んだのか、今の今まで泣いていたとは思えないケロッとした晴れやかな表情で、ルウナはビシッと姿勢を正した。