亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~

深緑を基調として色合いで、着ると言うよりも羽織る様な形式のものだ。着崩れを防ぐために、幅の大きい色鮮やかな帯を胴体に締めている。
背中の大きな蝶々結びからダラリと垂れ下がる帯は、誰もが思わず引っ張りたくなる。

非常に独特な民族衣装だ。



そんないるだけで異質な青年は、決して崩れる事の無い固い無表情のまま、両手で抱えたルウナをそっと地面に下ろした。
「ブーンしてブーン!」とよく分からない駄々をこねながら相変わらず飛び跳ねるルウナを静かに見下ろし、青年…ジンは、微動だにしなかった唇をこの時初めて動かした。


「………王子、以前からお聞きしたかったのですが……何故、このジンめのいる場所がお分かりになるのでしょうか。王子には私の姿が見えておられない筈だと思うのですが」

子供といえども、王子であるルウナに明確な敬意を現しつつ、礼儀正しくも堅苦しい敬語で淡々と質問を述べるジン。




彼の扱う能力は“闇溶け”と言われる特殊なものだ。

ここフェンネルには、ライマンという影から影へと移動しながら狩りをする魔獣が生息する。
そして“闇溶け”とは、このライマンの能力を人工的に使用できる様にした技だ。

習得するにあたり、最初の内はライマンの毛皮などを身に付けて地道な訓練をしなければならない。

夜は無条件、昼間でも闇がある場所ならば自由な移動が可能となるため、暗殺、潜入などの隠密行には最適の技だ。
しかし空気の流れに乗って移動するため、密室などの侵入は不可能に近い。

この“闇溶け”を極めれば“闇溶け”をしている仲間内での思念伝達が可能となったり、敵を引きずり込んで致命傷を負わせたりと画期的だが……慣れない内での長時間使用は、自我喪失を引き起こしたり、原形に戻れなくなったりと常に危険と隣り合わせでもあるため、非常にリスクの大きい技だ。





このフェンネルの軍部では兵士の“闇溶け”習得が義務化されているが、難易度の高い能力であるため、出来ない者の方が多いのだが…このジンは、別格である。

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