亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~
ジン=リドム。
齢十九にしてフェンネルの誇り高き、『フェンネル国家騎士団』の総団長という大役に、ローアン直々の指名を受けて一任された若き総大将だ。
この国の隅っこにひっそりと存在する、とある特殊な里から呼び出されてやってきた彼は、元々…猛獣術と暗殺術を得意とする凄腕の戦士だった。
そんな彼の“闇溶け”の習得は、まさに鬼に金棒。
あっという間に身体の一部の様に使いこなし、総団長でありながら敬愛するローアンの護衛でもある彼は、常にこの“闇溶け”で姿を何処ぞに眩ませているのだ。
ローアンが呼べば、ものの数秒で彼女の傍らに跪くジンの姿が現れるが……元々人見知りで他人には無関心な性格のためか、他人が呼んでも、なかなか出て来てくれないらしい。
兵士達にとって、ジンは頼れる反面神出鬼没で困った上司でもある。
誰にも見つけられない、そんな透明人間の如きジンだが、何故かこの小さなルウナには居場所が分かってしまうらしく、今回も同様…姿を消していたにも関わらず、ルウナは真っ直ぐジン目掛けて走ってきたのだ。
これにはジンも、首を傾げるしかない。
ぱちぱちと静かに瞬きを繰り返すジンに、こちらを見上げてくる可愛らしい笑顔は更に笑みを深めた。
「妖精さんが教えてくれるから、僕、分かるんだよー。何処に隠れてても、妖精さんは全部お見通しなんだから。ねぇそれよりジン、ブーンってしてよ!ブーン!」
「…ブーン、ですか。……畏まりました」
数秒の間を置いて、青年がその場で回りながら幼児を両手でブンブン振り回す…見ているだけでハラハラする危険な遊びを隅の方でし始めたが、ローアンとダリルは何も言わない。
そんな片隅の光景とルウナの楽しげな笑い声を無視しつつ、ダリルは再度手元の羊皮紙に視線を下ろした。
「……とりあえず、引き続きあのバリアンの観察は続けてみるよ。放置が一番怖いからね。…それとなく、探りを入れてみまーす」
「…任せた。ああ、それと…デイファレトの件はどうなった?」