亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~

足元を流れていく透明な一筋の水に、裸の指の腹を浸してみれば、その予想以上の冷たさに一瞬身が縮こまるのが分かった。
周囲をグルリと見渡せば、最後に見た時よりも敷き詰められた純白の壁は背を縮めている様に思えた。その一部におもむろに手を突っ込んでみれば、心地よい冷たさを当に通り越した冷気が皮膚を噛む。そして同時に、滑らかな表面だった積雪はボロボロと儚くも崩れ落ちていった。

谷までの長い道程で、降り積もった雪の壁に意味も無くパンチを食らわせながら来たためか、振り返って見れば道の両端に並ぶ雪の壁に、所々に凹凸が出来てしまっていた。
せっかく綺麗に雪掻きをされていた道が、自分のせいで小麦粉をぶちまけた床の様になってしまっているが…そんな事は気にしない。

「どうせ溶けちゃうしねー」

先ほどまでしんしんと粉雪を落としていた寒空を見上げてみれば、どんよりとした雪雲から明るいお天道様が微かに顔を覗かせていた。
隙間から差し込む日光が、流れる雲に阻まれながらもゆっくりと純白の世界に淡い熱を差し込んでいく。

季節は冬。
夜になれば吹雪が駆け回るし、昼間の気温はマイナスからまだ脱してくれない。
まだまだ先だが………さほど遠くないその先に、春の匂いがする。


さあ、今年はどれくらい早く春を迎えることが出来るだろうか。


深い谷に掛かった真新しい長い橋を渡りながら、冷たい雪解け水が谷底に流れていく様を眺める。



ふと澄み切った空気の漂う上空を見上げれば……ご丁寧にお迎えだろうか。きらりと銀色に光る翼を持った大きな鳥のシルエットが、視界の隅から隅へと横切って行った。

谷の口から吐き出される極寒の突風に身を震わせ、暖かさを求めるかの様に、イブは目の前の一本道の先を見据えて一気に地を蹴った。
鍾乳洞に似た真っ白な柱が群れなす不思議な道は、昼間でも仄暗い。
真っ白な道を、長いオレンジのポニーテールが元気よく風に靡いて走って行く。
息切れ一つせずに疾走するその姿は、目にも止まらぬ速さを維持していた。

外見で判断するに、歳は成人を迎えた十代後半くらいか。
少々気の強そうな大きなつり目は、常に子供の様な好奇心で満ち溢れている。
スラリとした八頭身の細身だが豊満なそれは、同じ女性ならば誰もが羨ましく思う程だろう。
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