亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~
突発的な謎の行動に、えええー?…と困惑するも、イブは慌ててあっという間に遠くなっていく彼女の背中を追いかけた。

他人が見たら競歩をしている様にしか見えない二人。
追いかけるドールはこちらに振り返らない少女の背に向かって声を投げる。

「何で加速したの!?」

「加速?加速なんかしてないわよ!これがいつものあたしの速さよ!だいたい歩く速さくらい気分で変えてもいいじゃないのよ馬鹿!ほら、扉ももう目の前じゃない!」

「…ドール、変!この質問する度になんか変!なーによもう!何か不味い事でも言ったっけ?」

「べ…べべべ別に不味い事なんか…やましい事なんか何にも…!………か、帰らない理由?ほ、ほら!!あたしはあの…自国ではお尋ね者で…多分死んだと思われているからそれを利用して…!…だから慎重、に…!」

「なんで耳、赤いの?」

「用があるんならとっとと中に入れ馬鹿!!」


最後にボソリと呟いた言葉に、ドールは赤く染まった両耳を手で隠すと…鬼の様な物凄い形相で振り返り、いつの間にか開いていた城の大きな扉に向かってイブは思い切り押し込まれた。

城内に入れたのはいいものの、前のめりに付きすぎた勢いでイブは前転しながらの入城となった。
額から思い切り床とご対面してしまったらしい。「に゙ゃっ!」とくぐもった声を漏らして、イブは冷たい大理石の床に転がった。

「…顔凹んだ!陥没した!いたたたた……」

垂れ下がったポニーテールを後ろに追いやり、悪態を吐きながら身体を起こせば……床を見下ろすイブの視界に、いつの間にか落ちる影が一つ忽然と浮かび上がっている。

徐々に視線を上げると、静かに目の前に佇む人物の足元が視界に入った。
ひんやりとした大理石だというのに、目前のそれは半分肌を晒した裸足だ。だが、冷たくないのかという疑問よりも、その綺麗な色白と……肌一面に隈無く浮かぶ黒い刺青に目が行ってしまう。


佇むそれが誰なのか。
一風変わった容姿と漂う空気で即座に理解すると同時に、イブの目と鼻の先にこれまた綺麗な手が差し出された。
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