亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~

イブの頭上辺りでいつの間にかフワフワと浮遊し始めたかと思うと、ノアは膝を抱えてうんうん唸っている。
ぶら下がるシャンデリアを揺らし、手遊びまで始めだした。


「…ああ…!久方振りのお客様のお越しだと言うのに私ったら洒落たジョークの一つも披露出来ないなんて…!でも嬉しい!でも情けない!どうしましょうこの温度差を抱えた私の情熱!どうしましょう、いやどうしましょう!…おや、このシャンデリア埃が溜まってますね。お手伝いのお嬢さん方ちょっとこちらを拭いて下さいな」

「ノアの情熱とかとりあえずどうでもいいから、早く案内してよ」


パタパタとはたきを片手に慌てて走り寄ってくる数人の召使い達を眺めながら、イブは淡々とノアの悩みをスルーした。

城に仕える一般人はノアを間近で見る事があまり無いのか、シャンデリアの汚れた部分を「この辺を拭いて下さいな」と丁寧に指示するノアを、興奮混じりの黄色い声を上げながら見とれている彼女達。

魔の者を見たことはあっても、面と向かって話す事などノア相手でしか出来ないだろうから、そりゃあ貴重な体験だろう。
その麗しい見た目だけでもノアの熱烈なファンは多いとも聞くし、今のデイファレト王の人気も凄まじいらしい。

主従揃って、深く愛されている。




「お城も随分人が増えたねー。結構人数多いんじゃないの?」

遅れてやってきたドールに言えば、彼女は腕を組んで溜め息を漏らした。

「あんたのところの国と違って、ここは軍部が無いからね。軍事力が無い代わりに、街や農村部から優秀な人材を起用して国政に集中させているのよ。お陰で志願者が後を絶たないわ。………主に、召使いの女中希望が多いけどね……原因はこの浮いている奴とその主でしょうけど…」

ドールは嘲笑にも似た笑みでじろりと頭上のノアを睨み付ける。
だが、彼女の強烈な睨みを受けてもこのノアは動じない。

「えー私?まぁ確かに私って凄く美しいって言われますし、毎日鏡を見る度にああ美しい!って自分でもそう思いますけど?…しかし、鏡の向こうの私は…言うのです…………ああ私って美しい!でも陛下の方がもっとお美しいから私は世界で二番目ね!…と」
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