亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
冷たい…しかし何処か湿り気のある…奇妙な突風。
舌の上まで出ていた続きの言葉を飲み込み、突如襲ってきた突風にほとんど反射的に顔を向ければ。
―――赤。
…白一色だった視界が反転し、赤一色に。
同時に鼻を突くのは、嘔吐を誘う様な凄まじい異臭。
キラリと光る、刃の如き銀の剣。
粘着質な液体を纏わせてしなる、真っ赤な鞭。
口だ。
大きな、口…。
「―――っ…!?」
鈍った頭は、鳴り響く本能からの警鐘を理解したが、時既に遅し。
反応が遅れたイブの身体は、牙を剥き出しにした巨大な口にあっという間に飲み込まれた。
その一瞬を、リストの目は捉えていた。
雪を従えた突風は、普通の風とは違った。
白く霞んだ霧状の空気の流れが一筋。竜巻の胴体にも似たそれは、まるで意思を持っているかの様にグネグネと地を蛇行し、そして弾みを付けて一気に上昇したかと思えば……イブを、飲み込んだのだ。
本の一瞬だったが、目に見える突風の先端に大きく開いた獣の口らしきものが見えたのだ。
…いや、らしきものなどではない。
あれは、獣だ。
それも、強大な。
「―――おいっ…!?………チッ…!」
声を張り上げるが、まず当の本人の姿が何処にも無い。生きた突風の気配も皆無だ。
リストは柔らかな新雪の上を俊足で移動し、今の今までイブがいた城壁の上に飛び乗った。
同時に、無理矢理閉じていた額の第三の目も解放する。
…身体を野獣フェーラに近付けるほど理性は揺らぎ、どうにかなってしまいそうだが…フェーラの身体の方が五感が効くのだ。今は、堪えるしかない。
最悪なコンディションと視界の中、神経を研ぎ澄ませて周囲の様子を窺っていれば…大して時間が経たぬ間に、状況は進展した。
城壁内の少し離れた辺りで、真っ白な粉塵が勢いよく上がったのだ。