亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
リストは直ぐさま城壁を伝い、白い粉塵が散る場所へと走った。
…凄まじい殺気が入り乱れる目下に視線を移せば、そこには身体半分が積雪に埋もれた状態で、しかししっかりと立っているイブの姿があった。
華奢な両腕を前に突き出した状態のまま、まるで何かを押し止めているかの様に………否、彼女は確かに、その手で止めていた。
…つい先程一瞬だけ見た、巨大な口だ。イブは両手で真っ赤な口の太い牙を掴み、その進行を妨げていた。
微かにだが、生きた突風…巨大な獣の姿が今なら見える。白く半透明な巨体は、手足の無い、大蛇そのものの姿だ。実体があるのはどうやら頭の開いた口のみの様で、長い胴体や尾以外は全て吹雪を透していた。
何メートル、あるのだろうか。はっきりとは分からないが、巻いているとぐろを伸ばせば相当な大きさに違いない。
…人間の手があまり入っていないこの雪国だからこその、獣か。こんな巨大な生き物は、そうそういない。
リストは鞘から短剣を抜いた。構えを取るが、実体の無い、空気同然の獣にどう対峙するべきなのか。
唯一、物理攻撃が当たるであろう獣の口には、今はイブがいる。的確に狙う自信はあるが、獣も馬鹿ではないだろう。寸前でどういう動きを見せてくるか分からない。
だがしかし、躊躇っている暇も無い。
今はとにかく、窮地に立たされているイブを助けねばならない。
(…奴の注意を、引き付ければ…)
はっきり言って、これと言っていい策など無いのだが、あのイブに恨まれるのも何かと面倒だ。予測出来ない危険を省みず、リストはそのまま足場の悪い地面に飛び降りた。
風の抵抗を受けながら、イブを喰らおうと大きく開いているその口に向かって。
短剣を、構えた。
「…こ、のっ……!」
鈍く光る短剣の刃を高く振りかざした途端だった。
半透明な獣の身体が、ぐらりと揺らいだかと思えば。
その巨体は、一瞬で分裂した。