亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
言うや否や、リストはそのまま後方へ重心を移し…ぐらりと傾いて、城壁の外側へと落下した。
彼の姿が壁の向こうへと消える直前、何処からともなく現れた二匹の大蛇が、釣られる様に壁を乗り越えてリストを追った。
高音と低音の入れ混じった不協和音の如き奇声が、高い壁の向こうから響き渡った。
リストと二匹の大蛇の姿が見え無くなった後も、イブと残り一匹の大蛇の押し合いは続いていた。
異臭が漂うグロテスクな口を開閉させながら押し迫ってくる大蛇を、突き出た牙を掴んで正面から受け止めるイブ。
両者の大きさに違いはあるものの、力はほぼ互角。だが、足場の悪い積雪の上での押し合いであるため、イブがやや不利な状況だった。
滑るブーツの靴底。埋まる両足。
…少しずつだが、イブの身体は後ろに押されていた。
「………あー…もう………嫌に、なっちゃ、う……」
不意打ちに気付かなかった事に加え、思うように身体が動かない事が、イブを苛立たせていた。
掴んでいる馬鹿デカい目の前の牙も、なんだかヌルヌルするし、この半透明な蛇…口が臭い。何を食べていたらこんな臭いになるのだろう。
この蛇…ただ襲っているのではなく、自分を食らおうとしているのか…ビシビシと浴びせてくる殺気は殺気と言うより、食い気と言った方が適切である。
イブを映す黄金色のぼんやりとした二つの瞳も、食欲というただ一色の、しかし凄まじい欲に塗れている。
醜い。
今の自分も、こんな目をしているのだろうか。
(………頭、痛い……喉、渇いた…………………………お腹、空い、た…)
吐き出す自分の息が、濃い白から魔力を帯びた赤に染まっているのを見て…イブは、口内の皮膚を噛んだ。
肉を刻む嫌な感触と、口に広がる血の味。
…意識が何処か遠くへ飛び立とうとしていたが、今ので我に返った。
油断すると、理性が飛んで完全なフェーラの姿に戻ってしまう。
戻れば、二度と人間の姿になれない自信がある。