亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~

真珠の様な丸い真っ赤な己の血が、純白に染まったキャンパスの至る所に見えた。
空気抵抗を受けながら吹雪の中を吹き飛ばされるイブの身体は、積雪に落ちるかに思われたが、彼女を食らわんとする大蛇の口が雪の嵐に塗れて突っ込んできた。


―――避けきれな…





間近に迫る死に対し、身体は意思に反して出来る限りの悪あがきをしようとするものだ。
イブも例外ではなく、今の今まで思うように動かなかった筈の手足が、臆病風に吹かれたかの様に生意気に俊敏な動きを見せた。

宙で身体を捻り、向かってくる牙をすんでのところで避けたのだ。
…が、所詮は悪あがき。


胴体から食らいつかれるという最悪な事態は免れたものの、大蛇の突き出た牙は……擦れ違い様、イブの右脇腹を、抉った。


「―――…っ…い゙っ…!」






…深い。歪んだ視界の端に、恐らく自分のものであろう赤い血肉の残骸が見えた。同時に、激痛と熱が脇腹を中心に全身へと駆け巡る。

痛い。


半透明のぼやけた大蛇の巨体が、すれすれのところを横切っていく。



痛い。



気がつかぬ間に、腕が折れていたようだ。右腕の肘から先が力無く垂れ、少々奇妙な方向へ曲がっている。




痛い。




大蛇の奇声が辺りに響き渡った。大蛇は巨体を捩じらせて旋回し、通り過ぎっていった筈の、あのすっかり見飽きた巨大な赤い口を再びこちらに向けて来た。







痛い。








もう身体は動かない。なんだか痺れているみたい。耳もよく聞こえないし、額の目も開きっ放しで、ちゃんと視覚が働いているのかも怪しい。



ああ、痛い。

痛い。

本当に痛い。

痛い。
痛い。
痛い。
痛い。




いたい。


イタイ。

















オナカ、スイタ。





< 1,281 / 1,521 >

この作品をシェア

pagetop