亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~






先程のリスト同様、そのまま勢いよく城壁に叩きつけられるかに思われたイブは。










…直後、動かせずにいた足で垂直に伸びる城壁を蹴って衝撃を消し、そのまま張り付いた。

壁に体当たり、という痛い思いはせずに済んだイブ。だがしかし……彼女を知る者がここにいればすぐに気付くことだったが…彼女の様子は、何処か、おかしかった。
俯いた頭は上がる気配が無い。肩で大きく荒い息を繰り返しながら四足で壁にしがみつく様は、獣そのものだった。髪の隙間から見え隠れする両耳は、既に丸みを帯びた人間のそれとは違っている。壁の凹凸に掛けている両手の指先には、鋭利な長い爪。

…本の少しだけ上げた顔には、突き出た牙を曝け出した大きく裂けた口が覗き…赤い吐息を漏らして、にんまりと微笑んだ。



そんな彼女の変化など露知らず、イブのみを標的とする大蛇は、少しも勢いを緩めることなく口を開いて突っ込んできた。
顎が外れるのではないかとさえ思える程の大きな口は、イブ一人くらい簡単に飲み込めてしまう。

迫る刃と赤。



互いの距離がほとんど零になるその瞬間。






その僅かな時間の中で、長い爪を引っ込めた後にギリリと握り締められたイブの拳が。





―――牙を、砕いた。






奇声は奇声でも、困惑と悲痛に満ちた奇声を大蛇は夜空に向かって吐き出した。
一回りも二周りも、それ以上に小さなイブのたった一発の拳によって、鋼の如き硬さを持っていた筈の大蛇の牙は、根元から砕け散った。

不意を突かれた大蛇の突進は狙いを外れ、厚い城壁に顔面から突っ込む形となった。


―――ズウゥゥ…ン、という、地鳴りに似た音が、辺りに響き渡る。




…広大な土地をぐるりと囲む城壁が、大蛇による衝撃から小刻みに揺れた。崩壊する程の揺れではなかったが、積み重ねられた石の隙間から砂埃と細かな砂利が零れ落ちる。

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