亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
さすがに顔面衝突は堪えられなかったのか。どうやら、意識が飛んだらしい。
緩んだ口から舌をだらし無く垂らし、埃と雪を被ったままズルリ…と、大蛇の頭が重力に従ってずり落ちる。
…が、落下しようとしていた、唯一目に見える赤い口から垂れた舌を、華奢な手が、掴んだ。
ぬめる舌に爪を食い込ませ、舌を引っ張るイブ。
実体は無いが重量はしっかりとあるらしい、宙ぶらりん状態の大蛇を見下ろすその顔には……玩具を見付けて喜ぶ子供の様な、満面の笑みがあった。
瞬きを繰り返しながら赤く光る三つの眼球と、高熱でもあるのではないかと思うくらいに紅潮した肌。鋭い歯が並ぶ裂けた口が浮かべる笑みは、人間とは違う。
獣の、フェーラの、それだった。
「―――…アー…」
間の抜けた声を漏らし、首を傾げて大蛇を見下ろした後…突然顔を歪め、折れていない方の牙をも掴み、そのまま………大蛇の巨体を、勢いよく振り回した。
長い長い半透明の巨体が華奢な腕一本で振り回される様は、滑稽を越えて狂気じみている。
布切れでも扱っているかの様に二度三度と宙に振り上げたかと思うと、瞬間、イブは一層力を込め。
「―――…ア゙…アア゙アアアアアアアア゙アアアア!!」
奇怪な雄叫びを上げると共に、城壁の外側に向かって、大蛇を投げ飛ばした。
約数十年間、沈黙が保たれていた禁断の地の静寂が、崩れ去った。