亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
急に静かになったかと思えば、気が付けば地震も無くなっていた。
ヨルンとかいう名の大蛇は、忽然と姿を消したのだ。周囲の様子を隈無く窺っても、それらしい気配は無い。
一体、どうしたというのか。
「………ヨルンは化け物ではありません。私の可愛いヨルンですよ。………あの子は今…遠くにいる訳ではありませんが、近くにいる訳でもないようですね。………厄介事を押し付けた様で彼等には申し訳ありませんが、これ幸いとでも思っておきましょうか」
「………彼等…?………何よ、それ…」
「いいえ、こちらの話です」
明後日の方向に視線を流してしれっと惚けたノアは、再び激しくなりつつある頭上の吹雪を見上げた。
………ヨルンの気配はある。だが、先程の様な狂気じみた殺気は薄く、しかもそれはこちらに向いていない。
今は安全だが、これも束の間の安らぎ………いつ奇襲が来てもおかしくない。
城全体を覆う結界は回復した。たとえヨルンが再び舞い戻ってきたとしても、完全に防ぐ自信はある。………だが、念には念を入れて……外からの侵入が無いように、完全に城を封鎖するべきだろう。
より安全である様に…城内へ。
…善は急げ。ここにいる全員を城内に入れるため、ノアは吹雪の向こうに見える小さな背中に声をかけようとした………が、その直前…ドールがそれを遮った。
「………もう少し、時間をあげたっていいでしょう?………自分達から来るまで……待ってあげていてよ………」
そう言って、ドールは未だに動かぬ二人の少年の背中に目を移した。
………時は金なり。
何事も、急いだ方がいいのに。
終わった人間との別れの後の……何も無い沈黙には、彼等は時間を費やす。
空いたその隙間に、何かを埋める様に。
人間って、複雑故に…きっと、脆く出来ている。
だから面白いのかな。
独り、ノアはぼんやりとそう思った。