亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
足元を見下ろす母の、切れた口元に目が行った。
頬が赤く腫れている。殴打されたのかもしれない。
………彼女の握り締めている短剣は見たことがある。護身用の武器だが………血に汚れているのは初めて見た。
よく見れば。改めて彼女を見てみれば。
ボロボロだった。
いつも以上に弱々しい母の姿が、そこにあった。
一応母であるこの女は、何故ここにいるのだろう。
何故、こんなにボロボロなのだろう。
彼女は、いつも待っているだけ。自分からは決して来ない。
自分は駄目だからとか…自虐的な考えばかりを持っていて、無理をすれば越えられるかもしれない壁が前にあっても、越えようとしない。
自分では駄目だから。
そんな、周りの言いなりの、操り人形みたいな彼女が、僕は気に食わなかった。
そんな気に食わない彼女が、ここにいる。
汚れて。汚れて。
痛い思いをして。
何も出来ないくせに。
弱いくせに。
本当は、怖くて怖くて仕方ないくせに。
ここに、いる。
待っていただけの彼女が、僕等を追いかけて。
こうやって、僕の、所に。
………何だろう。…欝陶しい筈なのに。
泣きそうに瞬きを繰り返す母を眺めながら………ユノは、彼女の元に歩み寄った。
呼ばない限りは自ら進んで近寄ろうともしない息子が大股で、しかも自分の前にやって来たことにサリッサは息をのむほど驚いた。
見上げてくるユノはなんだか不機嫌そうで、苛立っていて…。
サリッサは困惑しながらも息子の眼光を受け止めた。
「………よくここまで来れたね、お母様。…まぁ、ザイと一緒だったから当然だろうけど…」
「………」