亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
過ぎ去る彼の背中が長い廊下の向こうに離れて行くのを見送っていると、数秒遅れて、その後を不機嫌そうなユノが追っていく。
すぐに決着がつくであろう二人の追いかけっこを眺めながら溜め息を吐けば、背後からノアの声を耳にした。
「………貴女は行かないのですか?」
「……どうしてあたしが追い掛けなくちゃいけないのよ。…怪我人に走れって言うの?」
歩くだけでも痛いのよ、と片足を軽く叩いて見せ、ドールは愛用の鎚を支えにしながら、少年二人が立ち去った方へとゆっくり歩いていく。
…別に追いかけるわけじゃない、行きたい方向が一緒なだけで仕方ないだけなんだから…と聞いてもいないのにまくし立てた。
「………それに……あたしがいるよりも………仲のいい坊や同士が、一番良いのよ…」
最後にそれだけ言って、ドールは廊下の向こうに進んでいった。
サリッサも子供三人の後を追い、ついに独り大広間に残されたノアは、再び激しくなりだした吹雪で霞む外を一瞥し、片手の細い人差し指を宙で軽く振った。
…途端、巨大な扉は勢いよく口を閉ざし、重々しい轟音が辺りに響き渡った。
広間の中央に佇んだまま、ノアは闇と冷気が漂う暗く高い天井を見上げた。
そこにはやはり何も無い、何も見えないのだが……美しい模様がある代わりに一切の濁りの無い鮮やかなエメラルド色の瞳は、その先の曇った夜空を見据えていた。
人知れず、夜空を覆い尽くしていた厚い雲の群衆が…ゆっくりと、晴れていく。
その中に隠された運命の月の姿は、まだ見えない。だが、青白い輝きが隙間から漏れ出ていた。
雪が止んだ時。
風が止んだ時。
空が、晴れた時。
弓張月が、顔を見せた時。
その時は、来る。
時は近い。
「―――……ああ…………………………………………嫌だ…」