亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
目の前の、すっかり見慣れた彼の顔には、いつもの感情らしいものが一切感じられない表情は無く。
内からこみ上げるばかりで一向に止まる気配が無い、筋となって流れる温い滴で汚れていた。驚いたように見開かれた円らな紺色の瞳は、ゆらゆらと目の前のユノを映している。だが、それも僅かな時間だった。ハッと我に返ったレトは、すぐさま顔を逸らした。
叱られた子供の様な不って貞腐れた表情を浮かべながら、キュッと唇を噛み締める。
「………し…知ら…ない…」
「君…往生際が悪いよ…」
「知らないったら……知らないもん……!……僕…泣いてなんか…」
泣いてなんか…と、力無い声を漏らすレトの身体は、小刻みに震えていた。狩りの時間のあの狩人の姿は、今は何処にも無い。ちょっと突けばなんだか壊れてしまいそうなくらい、今は脆く見える。
…弱い者いじめは好きではない。決して人を泣かせることが好きな訳ではないのだが…ユノはそんな弱りきった彼に、更に追い打ちをかけるような態度をとり続けた。俯くレトを、冷たく睨みつける。
「……へー驚いた。素直が取り柄の君も、嘘を吐くことがあるんだね。しかも、あからさまな。…………何を意地になっているのさ…隠すほどのことでもあるまいし」
「………隠して……なんか…」
「よく言うよ。…僕らに見られるのがそんなに恥ずかしいのかい?……めそめそと独りで泣いて………子供だね」
「………違…う…そうじゃ…ない…!」
「意地っ張り。嘘吐き。……嘘吐き」
「―――………ちが………ち………。………だって……………………だっ………て……!!」
震える手が、肩を掴んでいたユノの手を振り払った。身体を捩って数歩の距離を取ると、レトは改めて向き直った。
変化の無い冷たい眼差しに、レトは鋭くも弱さを孕んだ眼光を投げつけた。その瞳からはやっぱり否定しても、どんなに意地を張っても、止めどなく流れ続ける憎々しい涙。自分ではもう、泣いていることなんか理解している。止められないことは分かっている。誰かに止めてもらいたいけれど。
もう、拭ってくれるあの人はいない。