亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
「………?……何だ…?」
…塔に上る前に、兵士は確かに…この渡り廊下の手前に立っていた筈だ。
それが今どうしてか、忽然と消失している。影も形も何も無い一点を見詰めながら、ウルガは首を傾げた。
…何があったのだろうか。召集がかかる呼び声や合図などは無かった。ならば……やはり緊急事態だろうか。
こういった際、国王の安全が第一であるため、兵士は速やかに謁見の間に集まることとなっている。
今向かうなら、そこか。
(………おかしい…)
言い知れぬ不安と、何か引っ掛かる奇妙な違和感を抱きながら、ウルガは誰もいない廊下でマントを翻し、謁見の間へと歩を進めた。
ここは、謁見の間から随分と離れている。急がねば。
軽快な靴音と木の実を割った様な松明の爆ぜる音色だけが、石造りのこの城内に響き渡る。
いつも城は緊張感に包まれ、沈黙が漂っているが。…今夜はやけに、静かに思える。………気のせい、だろうか。
無人の長い廊下を、独り歩く。幾つもの曲がり角には、一定の感覚で並べられた松明が赤々と燃えている。それは見飽きた毎夜の光景だったが…。
……そんな、視界の隅で揺らめく明かりの行列の中に、一つだけ………赤い光を点していない、冷え切った松明があった。
無意識に、ウルガの目は焦がした身を曝す裸の松明に向かった。
まるで死んでいる様なそれは、よく見れば人為的に両断されていた。
火の源となる油が染み込んだ布が包まれた先端だけが切り落とされ、無造作に転がっている。
最早何の機能も無いただの棒と化した松明。当然ながら、その先にある曲がり角には明かりの代わりに夜の闇が巣くっていた。
奥の廊下に至るまで、暗い道が続いている。
……一体誰がこんな真似を…。