亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
連続する違和感に、さすがにウルガもこれはただ事ではないのではないか、と思い始めた。
人もいない。物音もしない。気配も無い。…奇妙過ぎる。………何なのだ。
訳の分からない、気味悪くさえ感じる現状が把握しきれず、ウルガは辺りに視線をさ迷わせた。
縋る様にあても無く泳ぐウルガの目は、背後で燃え続ける松明を映し、切られた棒を過ぎ、暗い曲がり角の先を越えて。
……奥に続く廊下を横切った、人影を、捉えた。
その姿を眼球が映したのは僅か、一瞬の間だけだったが………それが誰だったのか、優れた動体視力を持つウルガの双眸は、見逃さなかった。
あれは。
今のは…。
(―――アイラ、様…?)
間違いない。たった今、視線の先を横切っていったのは確かに、彼。
第一王子、アイラだった。
彼の一歩後ろを続いて歩いていた人影は、きっと王子の付き人である魔の者、カイだ。
…だが、何故アイラがこんな所に、しかもこんな時間にいるのだろうか。ここは城内でも主に兵士が出歩きする場所。身分の高い人間は何か用が無い限り滅多に立ち寄ることは無い。
何か用が、無ければ。
(………何を、されて…)
彼の後を追い掛けるべく、ウルガは薄暗い道を小走りで駆けた。奥に広がる明るい廊下までの道程は、本の数メートル。短い距離のその半ば辺りにまで差し掛かった時。
また一歩踏み出そうとした靴の爪先が、何かを軽く蹴り上げた。
敷き詰められた石造りの壁や床の固さとは異なる、何かこう、柔らかい…。
反射的に足元を見下ろしたウルガは。
「―――っ…!?」
思わず、息を呑んだ。
…無理も無い。足元に転がっていたのは、松明の棒なんてものではなく。
人、だった。
闇に塗れているその姿はすぐには分からなかったが、血塗れだった。
横たわる背中には、剣による大きな刺し傷が刻まれていた。