亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
俯せで生々しい傷を曝す人間は、既に息が無い屍だった。だが、乾燥仕切っていない血溜まりや鼻を突く異臭の濃度からして…この死体はまだ新しい。
静かな襲撃は恐らく、本の数分前のことだったのだろう。
…この暗闇で顔はよく見えないが、服装からして自分と同じ兵士であることは間違いない。腰に差している剣に目をやれば、それは抜かれずにきちんと鞘に納まっていた。
………これは、何を意味するのか。
彼は、不意打ちにあったのか。それとも…。
(………見知った者、だったか………)
…考えている間にも、何故か濃さを増していく異臭に、ウルガは人気の無い廊下から掴み取ってきた松明を暗闇に翳した。
ぼんやりとした明るさを得た狭い道。
同時に、それまで闇で隠されていたものが、露わになった。
薄暗がりの中、視界に広がる幾つもの無惨に斬られた死体に、ウルガは顔をしかめた。
事切れた死体のどれもが、自分と同じ同士達…この階を警備していた者達だった。反撃する暇も与えられずに切り捨てられたのだろう…一様に一太刀で仕留められ、この明かりの無い狭い廊下に集められていた。床の石畳には、赤い線を引く引きずった跡が見られる。
もう、訳が、分からない。
(………アイラ…様は…)
酷く混乱する頭は整理が追いつかなかったが、ウルガの脳裏に何故か真っ先にアイラが思い浮かんだ。
問うのなら、彼しかいない。
ここで、何があったのか。いや…。
何が、起きているのか。
…不意に、背後から幾つかの足音が聞こえてきた。松明を翳して振り返れば、そこには数人の同士の姿。
そして、見慣れた彼等の手には………鞘から抜かれた鋭利な剣の光。
目にした途端、ウルガの目付きは鋭さを増した。