亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
「厄介事は嫌いだけれど、障害があると燃えるのは人の恋路と似ているね」
「…事は一刻を争っています………主、戯言はお控え下さい…」
「戯言?それはまた、心外だな。……私はいつも真面目に生きているし、真面目に物を言っているつもりだ」
歩を進めながら微笑を浮かべ、アイラは松明の明かりが届かぬ暗い天井を見上げた。
砂埃と、どんなに擦っても取れないと聞く不気味な赤黒い染みに塗れた天井。目を止めたところでそこには興味を引くものなど特に何も無いのだが。
………見えないだけで、見れる者が見れば、見えるものがそこにはある。
赤く透き通る目を細めながら、アイラは形の良い唇で弧を描いた。
「………それはさておき…カイ………ここの天井はどうだい?」
同様に天井を見上げていたカイが、不機嫌そうな低い声音で呟いた。
「………同じです。何処もかしこも……………それはもう念入りに…魔術封じが蔓延っています」
そう言うカイの模様が浮かぶ美しいエメラルドの瞳は、魔の者である彼にしか見えない光景が映っていた。
暗闇の中。長い廊下の端から端に至るまで、黒光りする古代文字が群れをなしていた。
意思を持っているかの様にそれらはゆっくりと天井を這い回り、絡み合い、隙間や吹き抜けに流れ込んでいく。それに伴い、漂う魔力が城全体へと広がっている様だった。
…この色といい、臭いといい、気味の悪さといい…よく知っている魔力だ。
「………やっぱり、そうなのか?……これは…」
「………残念ながら、主の予想通りの様で…」
「―――…空の魔石…か…。………急ごうか、カイ」
そう言って一瞬こちらに振り向いたアイラの顔は、こんな時だというのに呑気に笑っていて。
実に、楽しそうで。
そんな主の腹の内が読めない自分を、カイは密かに恥じた。