亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~





















「―――っ…ぁあああああ!!このっ…野郎が…!!」

あまりの寒さで感覚が無いという以前に、まず、上手くいうことを聞いてくれない己の身体。
よく分からない感覚に侵食されていくあやふやな自我の中で、焦りや苛立ちを振り払う様に大声を張り上げ、とにかく馬鹿みたいに両手を振り回した。

躍起になって振った手の長い鋭利な爪が、こちらに突進してきていた敵の身体に食い込んだのか…生温く、鉄臭い返り血がリストの顔に飛び散った。

訳の分からない耳鳴りがする両耳に、対峙している白い大蛇の悲痛な鳴き声が飛び込んできた。
そのあまりにのたうち回る様からして、どうやら食い込んだどころの話ではなかったらしい。リストの爪は、知らぬ間に大蛇の長い舌を裂いていた。

リストは、狂気にのまれぬようにと自分であちこち刺した身体の傷を押さえながら、大蛇から距離を取るべく後退した。
見えない身体を捩らせて口から血を垂れ流す大蛇を睨み、ゼエゼエと肩で息をする。




城の傍での戦闘は避けるべきだと判断したリストは、一旦城壁から外へと退避し、独りで二匹の大蛇を相手にしていた。

身体の自由がきかない上に、相手は半透明で口以外は実体が無いという厄介な大蛇。しかも、二匹。
最初から苦戦を強いられているリストは、何か打開策は無いのか…と、大蛇の突進を避け続けながらクラクラする頭で考えていた。

どうにか、しなければ。このままではこの空腹で狂った二匹の餌食にされてしまうだろう。

いっそのこと、この狂気に身を任せてしまえば案外楽に勝てるのではないか…とも思ったが、それは非常に危険な賭けだ。勝てたとしても、正気に戻れる自身が無い。獣に成り下がるのは御免だ。

(…あのじゃじゃ馬はどうした…?)


退避してから思い出したが…そういえば、あのじゃじゃ馬…イブは何処にいるのだろうか。何故か姿が見えない。もう一匹の大蛇の姿も無いことからして、恐らく何処かで彼女も対峙しているのだろう。

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