亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


………。


………一歩、リストは無意識で後退していた。




…この予想していなかったまさかの緊張感は、一体何だろうか。

普段の脳天気な彼女とは無縁の、このピリピリとした嫌な空気。
例えて言うならば、そう…小動物を狙う天敵の放つ殺気。

具体的に自身に例えて言うならば、そう………………今日はどうやって虐めようかな…と、静かに階上からほくそ笑んでいる魔王ダリルの視線に似た、恐ろしい空気。

もう一つ例えるならば、そう。
とある早朝、イブが寝起きのボケた意識で「肉が歩いている…」と馬鹿な勘違いをした揚げ句、涎を垂らしながら野性本能を剥き出しにして本気で襲い掛かってきた時の空気…。







…あ、三番目だ。
この空気は三番目の例えに一番似ている、酷似しているぞ。あの時はそれはそれはもう恐ろしかった。本当に死ぬかと思った。本当に。













不意に、イブがこちらを振り返った。
吹雪で揺らめくポニーテールの向こう側には。


…爛々と光る、赤い三つの目玉。耳まで裂けた口。そこから覗く鋭い牙の群れ。異常な程に紅潮した肌。

リストにピタリと焦点を定めた、小さな瞳。




















「似てるってレベルじゃねぇよ!!」


自分の知らぬ間に起きていたらしい事の展開、重大さを瞬く間に理解したリストは、その場から逃げる様に疾走した。




奴は、退化している…!!
いや、元々進化もしていなかったけれど、とにかく退化している。


いつだ?いつからだ?ちょっと目を離した隙に理性を手放してしまうとは、なんて稀に見る職務放棄だろうか。


落ち着いて整理すると…簡単に整理すると………敵が、増えた。味方はいない。故に俺は独り。




もう、泣きそうだ。


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