亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~

翻るマント。
捩った身体の脇、紙一重のスレスレの所を、大蛇の頭が通り過ぎていく。
その一瞬の擦れ違い様、リストは短剣を大蛇の口目掛けて突き刺した。

短くとも切れ味はいい刃は、大蛇の固い上顎に一本の深い溝を刻んだ。それと同時に吹き出す鮮血の赤。致命的でもない、かすり傷同然のものだが、口内への切り付けは地味に痛い。
案の定、痛みに身悶える大蛇の悲痛な悲鳴を背中に受け、退路を見出だすべくリストは再び前に向き直ろうとした。


…が、すぐ背後ではその直後、リストが襲撃を交わしたせいでそのまま突っ込んでくる形となった大蛇を、にんまりと不気味な笑みを浮かべたイブが、強烈な右ストレートで返り討ちにした。

フェーラの拳は、重い。岩石を粉砕する野獣の力は健在の様で、イブのパンチは大蛇の下顎の骨を砕いた。

―――ゴリッ…という、肉と骨がひしゃげる嫌な音が鳴り響くと共に、大蛇の素早い蛇行は脇に逸れてそのまま針山の一つに衝突した。

イブはそんな大蛇には目もくれず、先頭を走るリストに視線を戻すと再び地を蹴った。
力強い跳躍は一気に両者との距離を詰め、リストの頭上を越えたかと思うと……イブはリストの目の前に音も無く、実に俊敏な動きで降り立った。


「―――…っ…!?」

「………シャアアアァァッ………………フゥゥー…」

まるで威嚇する猫の様な唸り声をもらしながら、じわじわと近付いてくる…この野獣。
三つの瞳は極度の飢えに染まっていて、そしてリストしか映していない。





……喰われる。今日こそ、喰われてしまう。かなり前からこんな日がくるんじゃないかなぁとか冗談で思っていたり、思っていなかったりしていたが。







目の前の拭えぬ絶望感。

だがしかし、俺は生きる。運命に抗う。何故ならまず、こいつにだけは負けたくないからだ。

…初めて会った時からそうだ。こいつは宿敵。味方となった今でも、自分の中で、それは変わらない。




「………殺るか…?…イブ=アベレット…」
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